『フラガール』

この映画の舞台(現スパリゾートハワイアンズ)は、父親の実家のすぐ近く。調べたら5kmも離れていなかった。
子どもの頃に、ここの建設にまつわるエピソードを聞かされたことを何となく覚えている。劇中にも出てくる、開業前にヤシの木を枯らさないために、ストーブを使って暖めたという話などだ。


時代は昭和40年。高度経済成長の真っただ中で、見田宗介流に言えば「夢の時代」。しかし、エネルギー転換の中で、福島県いわき市という炭鉱の町は、じきにさびれてゆくという将来しか見えない。そこに、「炭鉱を閉鎖して、北国にハワイをつくる」という途方もない計画が打ち出されたわけだ。
今でこそ簡単にハワイになんて行けるが、当時の為替レート、ましてや東北の田舎町の人々にとってみれば、まさに「夢」の次元の話。


しかし、そうした「夢」の建設に町全体で一丸となろう、とは簡単にはならない。なぜならば、人々には炭鉱の町としてのアイデンティティや誇りが強固に存在し、変化してゆく時代の方が悪いという意識が持たれていたからだ。炭鉱の労働組合の猛烈な反対や、蒼井優演じる高校生が母親に勘当されるところなどは、そうしたコンフリクトを見事に反映していた。


また、蒼井優が演じる高校生と一緒にダンサーを目指した友人が、親の転職の事情で町を離れなければならなくなるシーンが印象的だ。いくら夢のある話でも、実際に新たに作り出される雇用には限りがある。今ならば、主人公の友人はダンサーを目指すことを続けられたかもしれないが、日々の生活の糧を得るのも大変だという当時の生活状況がそこには表れていた。(ちなみに、その友人一家が新たに向かう先が夕張市というのがうまく筋書されていると思った)。


それだけにラストの開業初日のシーンはいっそう感動的だ。基礎的な生活財が満たされ、何が人々にとって幸いなことかが自明ではなくなった現代においては、同様の事業を行い、同様の感動を表象させることはできないだろう。