Nitta, Michio. 2008. "Evolution of Japanese Employment Systems in the Lost Decade and After." Journal of Social Science 60: 33-42.
1990年代以降の日本の雇用システムがどのように変化したかについての論文です。著者は、日本の雇用システムは「経営者が労働者を解雇できない、またはしない」のではなく、「経営者が労働者を解雇しないように努力し、また労働者の側も解雇されないように努力する」仕組みだと論じます。いわゆる「終身雇用」は、こうした雇用主と労働者の解雇回避に受けた相互のコミットメント、または社会契約として捉えられるべきだということです。
解雇回避のために具体的に用いられる仕組みの1つが、著者が雇用調整システムと呼ぶものです。これは景気が後退していたり、企業が困難な状況に直面したりした時に、すぐに解雇や希望退職という手段を用いるのではなく、(1)残業の抑制、(2)新規採用の停止、(3)企業内での配置換え、(4)労働日数の削減、(5)企業間の出向を行うというものです。1970年代の半ば以降、裁判所は解雇が合理的と認められるためには、その前にこうした処置がとられていたかどうかが基準になると判断してきました。実際に毎月勤労統計では、所定内労働時間・総実労働時間ともに、特に1991-1994年の間に労働時間が削減されたことや、労働力調査から特に60代の雇用を減らしたということなどが示されています。
もう1つの仕組みは、雇用ポートフォリオシステムと呼ばれるものです。これは様々なタイプの非正規・非典型労働者を戦略的に活用するというものです。パート・アルバイト、派遣、請負労働者などがこうしたタイプの労働者に含まれます。就業構造基本調査によると、労働者全体に占めるパート・アルバイト労働者の比率は、1982年の8.1%から2002年には18.6%まで増加しています。ただし、1997年までは正規労働者の比率は57%前後で大きく変化はありません。1997年まで、パート・アルバイト労働者の増加に対して、縮小したのは自営セクターとのことです(自営業者は1982年→1997年で16.5%→11.8%、家族従業者は1982年→1997年で10.1%→6.0%)。