Gelman, Andrew and Guido Imbens. 2013. "Why ask Why? Forward Causal Inference and Reverse Causal Questions." NBER Working Paper No. 19614.
Gelman(2011)による、「前向き」、「後ろ向き」の因果推論という用語に関して、より掘り下げた論文です。
最近、先輩と『社会科学のパラダイム論争』の読書会をしているのですが、 因果メカニズムに関する章で、いわゆる「コウノトリと出生数」の話が出てくるのですね。この話が疑似相関であると感じるのは、時間的に先行する特定の変数をすぐに思いつくからではなく、2つの変数の間をつなぐ因果メカニズムを直観的に想定できないからだというように述べられています。
この議論が、本論文で言われるところの、「アプリオリな信念とデータの不一致」、「後ろ向きの因果的問いによるモデルの改善」という箇所と関係していそうだと思いました。
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Gelman(2011)による、2つの因果的問いの区別
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前向きの因果的問い(forward causal questions)、すなわち「原因の効果」(effects of causes):Xを行ったとしたら何が起きるか、ある操作の効果は何か
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後ろ向きの因果推論(reverse causal inference)、あるいは「効果の原因」(causes of effects)の探求:何がYを生じさせているのか
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この論文の主張は、前向きの因果推論は推定に関わるものであり、後ろ向きの因果的問いはモデルの確認と仮説生成に関わるものだということである;言い換えれば、後ろ向きの因果的「問い」は常に問うているものの、後ろ向きの因果「推論」は行わないのである
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「前向き」、「後ろ向き」とは時間ではなく、統計モデルの順序を意味する
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前向きの因果推論は、潜在結果モデルあるいはグラフィカルモデルの枠組みで扱うことができる
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後ろ向きの因果的問いは、モデルに存在していない新たな変数を探すことを含む;現状のモデルが対象としている現象を十分に説明しているかどうかという、モデルの確認として位置づけることができる
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後ろ向きの因果的問いは一般的に、明確に定義できる答えを有しない
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しかし、このことはそうした問いが価値のないものであるとか、統計学の範疇の外側にあるということを意味しない
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後ろ向きの因果的問いは、異常性(anomaly)、すなわち現状のモデルでは再現不能と思われるデータの特徴に焦点を当て、モデルの改善に関するあり得る方向を指し示す
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潜在結果モデルの枠組みを用いる長所の一つとして、前向きの因果推論における介入と結果を明確にすることへの動機づけが指摘されてきた;同様にして、後ろ向きの因果的問いの長所として、現状のモデルに対する問題を明確に考えるように動機付けてくれるということがある
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グラフィカルモデルの観点から言えば、異常性とはアプリオリな信念と一致しない矢印が存在することを意味する;ここから示唆されるのは、ある属性と結果の間の矢印を除去するような新たな変数を含んだ、より一般的なモデルを構築する必要性である