Cal Newport (2019) Digital Minimalism: Choosing a Focused Life in a Noisy World

 

Digital Minimalism: Choosing a Focused Life in a Noisy World (English Edition)

Digital Minimalism: Choosing a Focused Life in a Noisy World (English Edition)

 

 

 先日読んだDeep Workが面白かったので、こちらも。本書もいずれ邦訳されそうな気がしますね。Deep Workで主張されていたデジタル技術のもたらすdistractionとの付き合い方に関して、さらに掘り下げる内容になっています。

  1. 一方的な腕相撲(A Lopsided Arms Race)
  2. デジタルミニマリズム(Digital Minimalism)
  3. デジタルの片付け(Digital Declutter)
  4. 一人の時間を過ごす(Spend Time Alone)
  5. 「いいね!」を押してはいけない(Don't Click "Like")
  6. 余暇を取り戻す(Reclaim Leisure)
  7. 注意の抵抗組織に加わる(Join the Attention Registance)

 

 導入部では、「私はかつて人間だった」("I Used to Be a Human Being")という、インターネット上の情報依存に陥った人の記事にふれ、この問題の深刻さに注意を促します。この根拠として、絶えずSNSをチェックするというような行動依存が薬物依存に多くの面で似た傾向を示すという研究や、またアメリカのミレニアル世代では不安障害によってカウンセリングを受ける人々が顕著に増えているという事例を挙げています。

 特に著者が警鐘を鳴らすテクノロジーが、FacebookTwitterなどのソーシャルメディア、あるいはBuzzFeedRedditなどの娯楽情報(infotainment)サービスで。これらの運営会社はユーザーの意識を絶え間なく引きつけ、可能な限り時間を費やさせることで利益を上げる構造になっていることを指摘します。これらのサービスでは人々の依存的な行動を引き起こしやすいにデザインされていたり(「いいね!」機能など)、あるいはスマートフォンの登場によって一日に何度もこれらのサービスにアクセスすることがきわめて容易になったりしたことで、抵抗しようとしても容易には勝てない「一方的な腕相撲」(a lopsided arms race)になってしまっているとのことです。

 このような状況の中で生き方を見つめ直す方法として提唱されるのが、デジタルミニマリズムです。

デジタルミニマリズム

自分の価値観に強く見合うごく少数の注意深く選別・最適化された活動にオンラインの時間を費やし、その他すべてのことは喜んで手放すという技術利用の哲学のこと。

 

 この哲学に従った生き方として、著者が大きく参照しているのが、ソローの「森の生活」です。ソローが主流の経済学と異なって人生における時間をコストの計算において重視していたことや、現代社会における孤独(solitutde)の価値が説かれています。

 興味深かったのは、ソーシャルメディアが人々にもたらす効果に関して、実証研究の結果が一致していないという箇所です。ソーシャルメディアの利用が人々の幸福感を増すという結果と逆に孤独感を増すという結果が混在しているとのことですが、著者の解釈によるとポジティヴな結果を示す研究は利用者の「特定の行動」に注目している一方で、ネガティヴな結果を示す研究はソーシャルメディアの「全般的な利用」に注目しているとのことです。

 つまり、たしかにソーシャルメディアの利用自体にはポジティヴな効果があるとしても、これを打ち消す要因として、ソーシャルメディアをより利用するほどオフラインのコミュニケーションに費やされる時間が少なくなる傾向があり、結果として全般的にはネガティヴな効果が表れるという関係を示しています。

 デジタルミニマリズムにおいては、ソーシャルメディアは基本的に人生において必要のないものに分類され、著者自身はミレニアル世代にもかかわらず、一度も使ったことがないとのことです。このことを周囲に話すと驚かれることが多く、またそういった人々は自身がソーシャルメディアを利用することについて様々な理由をつけて正当化しようとするとのことです。そこに見られるは、少しでも何らかの利益があれば正当化できるという姿勢であり、そうした技術の利用によるコストの面はまったく無視されてしまっていると鋭く指摘します。

 ただし、ソーシャルメディアの利用が仕事上で必要な人々や、離れた家族・友人との連絡に強い価値を置く人々にも一定の理解を示し、なるべく最小限の利用ですむような実践的なアドバイスも提示されます。たとえば、ソーシャルメディアスマートフォンからはすべて削除し、必要であればPCからアクセスするようにするといったことです。つまり、望ましくない行動のコストを高めて、よいルーティンを確立するということですね。

 また、デジタル技術の片付け(digital decluttering)によってできた時間をいかに使うかという計画も大事とのことで、著者が提唱するのは「質の高い余暇」(high quality leisure)です。Deep Workでは職人的精神の価値が説かれていましたが、ここでも自分の手を動かして何かを作るタイプの余暇や、あるいはオフラインで人々と関わるようなタイプの余暇が薦められています。

 自分の例でいうとインターネット上のニュースに関しては、たしかに依存的というか、少なくとも明らかに必要と思われる水準を超えてチェックをしていたという反省があるので、最近は大学の図書館に足を運び、紙の新聞に切り替えて情報を得るようにしています(お金に余裕ができたら新聞の購読を再開したい)。