Brinton, Mary C. "Intentions Into Actions: Norms as Mechanisms Linking Macro- and Micro-Levels." American Behavioral Scientist 60(10): 1146-67.
- ポスト工業社会における出生行動を説明する理論として、3つのものが挙げられる。
- (1)個人化と、それに伴う個人の出生行動への規範的影響の減少を提唱する理論→しかし、「家族主義的」とされる国々において、出生率はもっとも低い。
- (2)国家の政策的介入によって、仕事と家庭のトレードオフを調和可能になることを強調する理論→政策によるプラスの効果を示す研究もあるものの、一致した結論は得られていない。
- (3)個人、特に女性が自らの出生希望を実現する上での制約が、社会によって異なることを強調する理論。McDonaldの「ジェンダー公正」理論は、公的・私的領域におけるジェンダー公正の進捗がもっとも遅れている国において、女性の出生希望と出生行動の乖離がもっとも大きくなると予測する。
- McDonaldの理論は、ポスト工業社会の中においてもなぜ出生率の違いが見られるかを説明するものとして、注目を集めている。Esping-AndersenとBillariは、ジェンダー公正と出生の多重均衡の存在を提唱している。
- 「第二の人口転換論」は人々の価値観の変化を強調するのに対して、McDonaldの理論は男女の性別役割分業を支持するイデオロギーと、構造的な条件との矛盾を重視している。こうした見方は、Beckerが新しい家族経済学として提唱した、労働市場への参加と育児の機会費用とのトレードオフという見方と両立しないわけではない。
- しかし、ポスト工業社会における現実のデータを見るならば、かつて見られた女性の労働参加と出生率の負の関係は、1980年までに逆転したのである。この事実は、女性の労働参加と育児のトレードオフを重視する説明に疑問を投げかける。
- この論文では、3点の修正がなされた説明を行う。(1)男性を出生の分析の中に再び取り入れる、(2)出産への意志がなぜポスト工業社会ではしばしば実現されないかを説明する、(3)構造的条件と出生行動を媒介する一連の条件として、文化的規範を中心に据える。男性稼ぎ主―女性ケア役割モデルに対する文化的規範を用いて、「低出生のジェンダー本質主義理論」(gender-essentialist theory of low fertility)と呼びうるアプローチを採用する。
- ジェンダー本質主義アプローチでは、出生の意図を行動に変換する上でのメカニズムとして、ジェンダー役割規範は理論化される。
- ジェンダー本質主義アプローチは、出生の希望や意図の水準そのものではなく、意図と行動に介在するメカニズムに焦点を当てるのである。すなわち、ポスト工業社会における重要な違いは、個人あるいはカップルの平均的な出生意志ではなく、その意図を実現させることを促進・制約するものとして感じている条件にあると主張する。
実証分析でやろうとしていることは、以前に読んだArpino et al.(2015)とあまり違いはないように思います。しかし、Arpino et al.(2015)はあくまでマクロレベルの分析であることを強調し、ミクロレベルの説明に関しては抑制的でした。それに対して本論文は、Colemanなどにも積極的に言及しているように、ミクロ的な基礎づけを重視しています。
本論文で提唱されている理論を厳密に検証する上では、個人レベルの変数を入れたマルチレベル分析が適切なのでしょうが、データの制約でまだそこまでやるのは難しいようですね。