Arpino et al. (2015) "How Do Changes in Gender Role Attitudes towards Female Employment Influence Fertility? A Macro-Level Analysis"

Arpino, Bruno, Gøsta Esping-Andersen, and Léa Pessin. 2015. "How Do Changes in Gender Role Attitudes towards Female Employment Influence Fertility? A Macro-Level Analysis." European Sociological Review 31(3): 370-82.

 

 以前に研究会で読んだ文献ですが、こちらにも載せておきます。

 

要旨

  • 女性の就業に対するジェンダー公正態度(gender-equitable attitudes)の拡がりは、出生の増加と関連しているのか。

  • 出生に対する正の効果が生まれるには、全般的なジェンダー公正態度の高さのみならず、その男女間における収斂が必要である。

  • World Values SurveysとEuropean Values Studiesを用いて27ヶ国の分析を行う。

  • ジェンダー役割態度の変化と出生には、U字型の関連があるという仮説が支持される。

 

導入

  • 1990年代の後半から、多くのOECD国家で出生率の回復が見られた。この説明としては第一に、人間開発指数(HDI)が高度の水準になった段階で起こりやすいというものがある。第二の説明は、女性の就業を強調する。たとえばフランス、スカンディナヴィア諸国、アメリカなど女性の就業が規範となった段階で出生率の回復は起きやすいというものである。第三の説明は、仕事と家庭の調和や、制度・政治的文脈がこれらを促進することに注目する。
  • Chenais(1996)によれば、仕事と家庭を両立させる政策は、ジェンダー平等主義と正に関連している。
  • Esping-Andersen and Billari(2012)は、両立政策が女性の役割変化に対して内生的であると主張する。つまり、こうした政策は女性の役割革命が十分に進んだ段階になってはじめて成立しやすいのである。
  • この論文では、女性の就業自体ではなく、機会平等に関する社会レベルの態度を捉えることを試みる。有償労働に関する男女の平等な権利への支持が、国レベルの出生率のトレンドと関連しているかどうかを検証する。
 

ジェンダー平等、ジェンダー公正、および出生

  • FraserとMcDonaldは、ジェンダー平等とジェンダー公正の間に、概念的・経験的な区別を行っている。ジェンダー平等は、異なる領域のアウトカム(教育、労働市場、医療など)が男女で異なるかを測るものである。これに対してジェンダー公正は、機会平等の感覚についてのものである。たとえば、ジェンダー開発指数(GDI)は、ジェンダー平等の指標である。
  • McDonald(2013)が述べるように、出生に影響するのはアウトカムがジェンダー間で平等であるかどうかよりも、むしろそれが公正でかつ望ましいと思えるかどうかである。
  • 先行研究とは異なり、(i)女性の雇用に対するジェンダー公正の態度に焦点を当てる。(ii)態度と出生の関連について、異なる国々の時間的な変化を分析する。ジェンダー役割と分業についての社会的規範の重要性は、Esping-Andersen(2009)の「多重均衡」フレームワークにおいても強調されている。これは伝統的な家族モデルから、「ジェンダー対称」家族モデルへの移行段階の初期において、出生率はもっとも低くなると予測するものである。
  • アウトカムをジェンダー平等の指標として用いるのは、誤解を招く場合がある。たとえば、1990年代のバルカン半島諸国はスカンディナヴィア諸国と同様に、女性の教育と雇用水準が高かった。しかし、これらの国々は、非常に伝統的なジェンダー役割態度を示していた。
  • 仮説は図1に示される。A→B→Cはそれぞれ、ジェンダー役割態度が伝統的な段階から公正な段階への移行を示している。Aは男性稼ぎ主型モデルへの固執が特徴的であり、人口の大多数(女性含む)は、不平等な分業を受け入れている。この伝統的な均衡においては、高い出生率(および安定した結婚)が生まれる。Bは中間的な段階であり、ジェンダー公正の態度を持つ人々は増えるものの、女性に対する機会の増大と結びついていない。そのため、状況的な文脈は、より多くの人々によって不公正だと捉えられる。Cは高度のジェンダー公正態度が、女性に対する増大した機会に反映されており、多くの人々にとって公正と捉えられる。
  • 初期の段階(AからB)においては、女性は両立の問題に直面するため、出生率は低下することが予想される。
  • Esping-Andersen and Billari(2012)は、女性の役割変化にジェンダー公正が伴わない場合に、女性は3つの異なる戦略を取りうると述べる。それらは、離脱(exit)、発言(voice)、忠誠(loyalty)である。退出戦略は、女性がジェンダー公正なパートナーを見つけられない場合に、結婚を遅らせたり、出生を減らしたりすることを意味する。忠誠戦略は、女性が解放や独立に対する野心を断念することを意味する。たとえば、第一子を出産後にキャリアを抑えるようなことである。そして発言戦略は、ジェンダー公正への積極的な取り組みを意味する。
  • AからBへの移行においては、ジェンダー公正態度の拡がりは限られており、退出戦略が現実的となる。発言戦略が有効となるのは、移行が加速したB→Cの段階においてである。
  • より同質的で階層化されていない社会(民族的・階級的)においては、各段階の移行は速く、かつU字カーブもより急なものとなると予想される。
  • 図1のパネルI,II,IIIはそれぞれ、ジェンダー公正格差が中・低・高の仮想的な国々を表している。U字の変化は共通であるものの、男女間の合意が強い国々ではその変化がより急激なのである。
  • この仮説が意味するところは、AからBへの移行において、ジェンダー公正が出生に与える効果が、ジェンダー格差が大きい国々では弱いということである。ジェンダー格差が大きい国々では、ジェンダー公正的な態度を持つ女性が忠誠戦略をとりやすいことが示唆される。
  • BからCへの移行では、ジェンダー公正態度が社会に拡がる。しかし、全般的なジェンダー公正態度の水準は高くとも、ジェンダー格差の減少が伴わなければ、出生の増加には結びつかないと考えられる。ジェンダー格差の大きい国では、退出戦略が依然として多くの女性によって採用されるのである。
  • 要約すれば第一に、ジェンダー公正の変化と出生の関係は、すべての国々においてU字型であると予想される(仮説1)。第二に、ジェンダー公正が出生に与える影響は、ジェンダー公正態度の男女間格差が小さい国々において、より強いと予想される(仮説2)。
 

データと方法

  • World Values SurveysとEuropean Values Studiesをもとに分析する。これらは個人レベルの繰り返しクロスセクション調査であり、約10年置き(国によっては5年置き)に行われている。最初のwaveは1981年であり、直近は2008~2009年である。
  • ジェンダー公正の指標は、「仕事の数が少ない場合に、男性は女性よりも仕事を得る権利を持つべきである」という質問であり、選択肢は(i)「そう思う」、(ii)「そう思わない」、(iii)「どちらとも言えない」からなる。「そう思う」と「どちらとも言えない」を0とし、「そう思わない」を1とする二値変数を作成した。サンプルは14~50歳までの出産可能な年齢に当たる人口に限定した。
  • 次のようにジェンダー公正指標と、ジェンダー格差指標を作成する。
  • [Gender Equity_(c,t)] = c国のt年においてジェンダー公正な態度を示す人々の比率
  • [Gender Gap_(c,t)] = (c国のt年においてジェンダー公正な態度を示す女性の比率)-(c国のt年においてジェンダー公正な態度を示す男性の比率)
  • 国と調査年による属性的な構成の違いを調整するために、これらの指標の実際の値ではなく、年齢と学歴を統制したプロビットモデルによる予測確率を、ジェンダー/国/調査年ごとに計算して用いた。
  • 次のモデルを推定する。
  • [TFR_(c,t)] = β_0 + β_1 * [GenderEquity_(c,t)] + β_2 * [GenderEquity_(c,t)^2] + β_3 * [GenderGap_(c,t)] + β_4 * [Gendergap_(c,t)^2] + β_5 * [GenderEquity_(c,t)] * [GenderGap_(c,t) ] + β_6 * [Gendergap_(c,t)^2] * [GenderGap_(c,t) ] + α_c + ε_(c,t)
  • α_cは国の固定効果である。各国内におけるジェンダー公正と合計特殊出生率TFRの関係に関心があるため、ランダム効果ではなく固定効果モデルを用いる。
  • TFRには年ごとのゆらぎがあるため、隣接する3年間の平均値を用いる。
 

結果

男女別のジェンダー公正態度の変化
  • 図2は国ごとに、それぞれの調査年におけるジェンダー公正指標の平均値を示したものである。スカンディナヴィア諸国は80%以上と高く、東ヨーロッパ諸国は60%以下の低い値を示している。
  • 図3は、国別・男女別にジェンダー公正指標の変化を示したものである。最初の調査年において指標の値が小さい順から並べてある。国ごとにある年の公正の水準は異なるのみならず、男女の一致の程度も異なっていることがわかる。
  • 図3の上段は、1990年代にジェンダー公正の水準が低く、A段階であった国々である。ここには、ほとんどの東ヨーロッパ諸国が含まれる。しかし、ジェンダー格差については異なるパターンが見られる。ブルガリアとルーマニアでは、2009年までに男性のキャッチアップが見られる。
  • 図3の中段は、B段階と言える国々である。ここには、ほとんどの大陸ヨーロッパ・地中海の諸国と、一部の東ヨーロッパ諸国が含まれる。イタリア、ポルトガル、東西ドイツ、アイルランドでは変化のペースが遅い。東ドイツ、スペインではジェンダー格差が大きく、フランス、ベルギーでは小さい。
  • 図3の下段には、スカンディナヴィアとアングロサクソン諸国が含まれ、1990年時点ですでにC段階に至っている。フィンランドとオランダは90年代ではジェンダー公正的な回答が低かったものの(78%と72%)、2009年までに大きく上昇した。ただしフィンランドでは、女性におけるジェンダー公正態度がより増加したために、男女間格差は拡大した。

ジェンダー役割態度と出生率の関係
  • パネル分析におけるパラメータ推定値を示した表2は、非線形および交互作用効果のために解釈が難しい。よって、図4には表2のモデル2からの予測値を示した。予測値が示す軌跡はU字を描き(ジェンダー公正指標の一次項は負の効果で、二次項が正の効果であるため)、仮説1を支持するものである。
  • 図4の右側には、表2のモデル5(交互作用も含めたフルモデル)による予測値を示した。仮説2による予想どおりに、ジェンダー公正態度の変化がTFRに与える効果は、ジェンダー格差が小さい国ほど大きい。A段階において、ジェンダー格差が大きい場合に出生率の減少が小さいことは、退出戦略よりも忠誠戦略が優位であることを示す。ジェンダー格差が大きい場合に、女性はパートナーのジェンダー態度と妥協し、自らのキャリアを断念しやすいという解釈である。またC段階では、ジェンダー格差が小さいほど、公正態度が出生率を上昇させる効果は大きくなる。
  • ただし、これらの結果は異なるジェンダー公正の水準と格差の組み合わせについて、予測値を外挿(extrapolation)することによって得られたものである。図4はAからC段階への移行を経験した仮想的な国を描いたものであるが、データの観察期間中にこれらすべての移行を経験している国はない。よって図5には、調査開始年から見て異なる移行段階を経験したいくつかの国を選択して、予測値をプロットした。
  • 図5に示したのは、ポーランド、イタリア、オランダであり、それぞれ90年代にA,B,Cの段階に分類できる国々である。特定の国に関してU字型の変化を観察はできないものの、ポーランド(A段階)ではジェンダー公正が出生率に負に働き、オランダ(C段階)では正に働いていることがわかる。

頑健性のチェック
  • ジェンダー公正の指標に関して、より限定されたサンプルにはなるものの、利用可能なジェンダー関連の項目を利用して、統合的な指標を作成した。この場合にもU字カーブに関する仮説は支持された。
  • 出生のタイミングが結果に影響するかどうかをチェックするために、調査年における出生の平均年齢の増加ペースと、第一子出生時の平均年齢を統制した分析も行った。同様にして、U字カーブに関する仮説は支持された。
  • 先行研究で出生率に影響すると議論されている、人間開発指数および女性の就労率を統制した分析も行った。ジェンダー公正と出生率の関係は頑健であり、ジェンダー公正とジェンダー格差の交互作用は10%水準ではあるものの、依然として有意であった。
  • はずれ値を除外した分析を行ったところ、仮説1は頑健に支持され、仮説2はやや弱く支持された。
 

結論

  • この分析枠組みは、ジェンダー公正的な態度の拡がるプロセスを想定している。なぜある国々では、より急速かつ同質的にジェンダー公正の規範が拡がるのだろうか。この論文の範囲は超えるものの、女性の役割についての革命が成熟することと関連しているのは疑いない。女性の働き方がパートタイム労働へのコミットメントに支配されている限り、役割革命は十分なものとは言えない。女性が生涯のフルタイム労働をアイデンティティとして初めて、ジェンダー平等は加速するのである。
  • この分析はマクロレベルのものであり、結果の解釈を個人レベルの振る舞いについて適用することはできない。この論文における主張は、ジェンダー公正の文脈的なレベルの重要性を強調している。
  • 仮にミクロ―マクロ分析を行う際に、本論文で用いたデータは繰り返しのクロスセクション調査であるという限界がある。個人レベルでは、ジェンダー態度と出生の関係は逆であるかもしれない。さらにジェンダー態度は回答者のみに尋ねており、パートナーの態度は調査されていない。しかし、出産の意思決定はカップルによって行われるものである。Aasive et al.(2014)は、ジェンダー態度のカップルでの不一致が第二子を出産する確率を低下させると議論している。