神島裕子(2018)『正義とは何か――現代政治哲学の6つの視点』

 

正義とは何か-現代政治哲学の6つの視点 (中公新書)

正義とは何か-現代政治哲学の6つの視点 (中公新書)

 

 

序章 哲学と民主主義――古代ギリシア世界から

第1章 「公正としての正義」――リベラリズム

第2章 小さな政府の思想――リバタリアニズム

第3章 共同体における善い生――コミュニタリアニズム

第4章 人間にとっての正義――フェミニズム

第5章 グローバルな問題は私たちの課題――コスモポリタニズム

第6章 国民国家と正義――ナショナリズム

終章 社会に生きる哲学者――これからの世界へ向けて

 

  • 序章は古代ギリシアの思想から始まるのですが、1章でロールズの正義論を扱った後で、2章ではロックやアダム・スミスの古典リベラリズムという形で歴史的には遡る形になっているのが面白いなと思いました。確かにロールズを参照点として根源となる思想を振り返るほうが理解しやすいという面がありそうです。本書は著者の大学での授業に基づいているということですが、授業の構成としても歴史的な順序にこだわる必要はないよな、と思ったしだいです。
  • ロールズ以降の正義論の潮流、特にコスモポリタニズム(トマス・ポッゲなど)については基本的なことからわかっていなかったので勉強になりました。『政治的リベラリズム』など後期ロールズの思想とも、要所で関連づけられているので理解が深まりやすかったように思います。
  • 井上達夫先生は『政治的リベラリズム』でロールズの正義理論は大きく後退してしまったという評価をされているようですが、これは政治的哲学者の中で一般的な評価なのかどうか気になっています。
  • アダム・スウィフトは教育機会の均等に関する論文をいくつか読んだことがあるのですが、「機会の平等の観点から、親による子どもへの本の読み聞かせは道徳的に許されるか」という議論が本書で採り上げられていて、一般的な正義論の中でも影響があるのだなと知りました。
  • リバタリアニズムについては、渡辺靖先生の著書を以前に読みましたが、こちらは現代アメリカの複雑な政治・社会状況の中で捉えることが主眼に置かれていた一方で、本書では古典的リベラリズムの延長に位置づけるということで、思想的なバックグラウンドという面ではより理解しやすくなっていると思いました。
  • フェミニズムの章で指摘されている、「ロールズは家族の問題に関してはかなりコミュニタリアンに接近している」、つまり「ロールズにとっては家族は社会が介入すべきではない特別な共同体である」というのは、重要な指摘であるように感じました。ただし、本書の記述だけからだと、ロールズが家族内では財が公正に行き渡るだろうと考えていたのか、あるいは仮に不公正な分配が行われていたとしても社会が介入すべきではないという立場であったのかが、わかりませんでした。