Thelen and Kume(2006)「コーディネートされた市場経済における雇用主間の協調の問題」

 

Thelen, Kathleen and Ikuo Kume. 2006. "Coordination as a Political Problem in Coordinated Market Economies." International Journal of Policy, Administration, and Institutions 19: 11-42. 

 

 伝統的な日本の経営慣行のこれらの2本柱は企業レベルで運営されているため、労使関係は資本主義の多様性の研究で強調されているような種類の雇用主間のコーディネーションには基礎を置いていないように見えるかもしれない。しかしながら、年功賃金と長期雇用慣行は雇用主どうしが(少なくとも大企業の雇用主どうしが)協調している場合にのみ維持可能なのである。たとえば、雇用主が新入社員に対して高い賃金を設定することをお互いに控えることによってのみ、年功賃金システムは存続可能である。言いかえれば、すべての企業が新入社員を相対的に低賃金で雇い、その企業の中でキャリアを経るにつれて給与を上昇させていくことに合意していなければならない。[28] 

 

 この論文の論点は、スウェーデン、ドイツ、日本における雇用主間のコーディネーションの近年の変化を探求するというものであった。それぞれの事例において、現代の市場の発展はある面では特定の(伝統的な)労使関係制度における雇用主の利害を強化していると資本主義の多様性の研究が指摘しているのは、まったく正しい。しかしながら、これらの研究がしばしば不十分であるのは、ある国の文脈の中における雇用主を、根本的に利害が同質的であるとみなしていることであり、そしてその結果として、企業が伝統的な制度へのコミットメントを強化している兆候はすべて制度の安定化への動きであるとみなしてしまっていることである。これに対して本論文で示されたのは、特定の産業・特定の企業における伝統的な制度の中での協調の強化が、実際には他の産業・企業が協調していくことを困難にしているということであり、そのため資本主義の多様性研究がシステムを維持する力とみなしているのとまったく同じ力によって、システムの不安定化が起きているのである。[35]