Kreyenfeld (2002) "Time-squeeze, Partner Effect or Self-selection? An Investigation into the Positive Effect of Women's Education on Second Birth Risks in West Germany"

Kreyenfeld, Michaela. 2002. "Time-squeeze, Partner Effect or Self-selection? An Investigation into the Positive Effect of Women's Education on Second Birth Risks in West Germany." Demographic Research 7:15-48.

 トピック自体も興味深いですが、使用されているモデルにより興味があって読みました。人口学の分野では、女性の第一子出産からの第二子出産への移行が、学歴が高いほど起こりやすいという事実が知られているそうです(日本でもそうなのでしょうか)。つまり、第一子出産という状態を条件付けると、大卒女性ほど第二子をより生みやすいということです。この現象について、著者は他の要因による、3つの交絡の可能性を検討しています。

 第一に、「時間締めつけ」(time-squeeze)仮説というもので、女性の年齢に注目をするものです。子育てと学業の両立は容易ではないので、大卒女性の第一子出産時年齢は高くなる傾向があります。これは、女性の出産可能な年齢の限界がより近くなるということを意味するので、第二子出産への移行確率が高くなるというものです。

 第二に、学歴同類婚(educational homogamy)に注目をするものです。学歴同類婚は様々な国で広く見られる現象ですが、この論文で用いられているデータにおいても、カップルの学歴が同程度である割合は60%になっています。ドイツのように男性稼ぎ主(male breadwinner)型レジームに属する国においては、男性の雇用状態と収入が、出産における意思決定において重要になりえます。もし、収入が十分でない場合には、第二子の出産を遅らせる可能性が考えられます。しかし、女性の学歴が高い場合に、それは収入のポテンシャルの高さを表す指標でもあるので、第二子出産への移行がより起こりやすくなるという説明がなされます。

 第三に、観察されない異質性(unobserved heterogeneity)によるセレクションに注目をするものです。すでに第一子を出産している人々というのは選択を行っているグループであり、そこには子どもに対する選好が働いているということが考えられます。ドイツのように子育てと働くことが両立しにくい社会においては、大卒女性が出産することによる機会費用が大きいということが想定されます。それでも第二子を出産する大卒女性というのは、出産に対する強い選好を持っているということが考えられ、これが第一子・第二子の出産の双方を説明するというものです。

 3つの仮説はそれぞれ、高学歴それ自体の効果があるというのではなく、他の要因による交絡があると主張するものです。特に本稿のオリジナルな点は、3つ目のセレクション仮説で、これは第一子出産をプロビットで、第二子出産をイベントヒストリーでモデル化し、これらを同時に推定するというものです。

 結果として、第一の時間締めつけ仮説は、モデルの特定化に敏感であり、一貫して支持する結果は得られないというものでした。第二にの学歴同類婚仮説については、夫の学歴を統制した場合には、妻の学歴が第二子出産への移行に与える影響は統計的に有意ではなくなるという結果が得られています。ドイツのように男性稼ぎ主的な制度的文脈においては、男性の雇用状態が多くの子どもを持つ上では非常に重要な要因となると著者は考察しています。第三のセレクション仮説についても支持されています。個人の観察されない異質性を表すパラメータが統計的に正の有意な結果を示しており、これを考慮すると、女性の大卒学歴が第二子出産への移行について示していた正の有意な係数は見られなくなっています。この解釈として、家庭的な志向を持つ大卒女性が第一子出産をより選択しやすく、またこの家庭的な志向が第二子出産への移行を促すものになっているという説明がされています。