[英訳]天野(1983)「教育の地位表示機能について」3,4節

 

天野郁夫,1983,「教育の地位表示機能について」『教育社会学研究』38: 44-9. 

 

  天野先生の文章は、一文が入り組んでいる構造になっていることが多く、英訳するのがキツかったです。格調は高いですが、自分で書くときには真似してはいけないスタイルだと思います。

 

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藤田一照・伊藤比呂美『禅の教室――坐禅でつかむ仏教の真髄』

 

禅の教室 坐禅でつかむ仏教の真髄 (中公新書)

禅の教室 坐禅でつかむ仏教の真髄 (中公新書)

 

 

 先日採り上げたマインドフルネスの考えとも通じる部分がありますが、「いかにして現在の経験に集中するか」というのが自分の最近の生活全般のテーマになっています。というのも、普段オフィスで机に向かっていても、「前に拙い発表をして恥をかいたなあ」とか、「次の仕事が決まらなかったらどうしよう」とか、意外と目の前の仕事のことだけを考えるということができておらず、またそれは仕事のパフォーマンスにも明らかに悪い影響を与えているためです。

 禅が現在の経験をありのまま捉えるのを重視しているというのは何となく知っていたので、もう少し勉強してみたいと思っていました。ただ自分の場合はプラグマティックな問題意識がやや強く、禅の歴史や根本思想にはそこまで興味はないので、坐禅という実践を中心に解説するという本書のスタイルは合っていました。

 印象に残ったことの一つは、坐禅における自発性(spontaneity)の重視です。ともすれば坐禅というと足腰を痛める姿勢や、警策など無理を強いるイメージがありますが、本書の著者はそれを否定しています。あくまで結果として確立されてきたのが現在の坐禅のスタイルということで、初めから教条的にそうしなければいけないと思いこむ必要はなく、試行錯誤を重ねて自分にしっくり来る姿勢や呼吸を探すのが大事だということです。この辺りは、アメリカ(足を組めない人が多い)で修行を積んだ著者の柔軟性が現れている部分があるようです。

 もう一つは、自分はプラクティカルな問題意識で勉強をし始めたと書きましたが、それを戒めるような内容です。というのは、著者は瞑想と坐禅を区別し、坐禅は何か目的意識を持ったり見返りを期待したりするものではないことを強調しています。ついつい、「出家しているのでなければ、坐禅を始めるのに何らかの報酬の期待をするのは仕方ないのではないか」とも考えてしまいますが、著者の言う「ただ坐る」ことに集中した方が結果的に長続きしたり、心身にもよりよい影響があったりするのかもしれません。

[英訳]天野(1983)「教育の地位表示機能について」1,2節

 

天野郁夫,1983,「教育の地位表示機能について」『教育社会学研究』38: 44-9.

 

 自分自身の研究だけだと英語の表現が拡がらない気がしたので、日本語で書かれた論文を勝手に英訳してみるという作業を始めてみました。

  • ゆるく続ける
  • ミスを恐れない
  • 校正は頑張らない

をモットーに、このブログにも掲載しようと思います。

 

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山岸先生のご訃報

 

 山岸俊男先生が先日お亡くなりになられたのですね。一時期、新制度論の文献を集中的に読んでいた際に、山岸先生の提唱されている文化的選好に対する制度的アプローチはもっと勉強したいと思っていただけに、とても残念です。

 社会心理学は専門から外れるため詳しくはないものの、山岸先生のご研究は理論的に新奇であり、しかも実験によってしっかり裏付けられており、どれも面白く読みました。このブログでもいくつか採り上げさせていただきましたし、授業で教える際のネタとしても使わせていただくことがありました。

 

 

 2010年に東大で開催されたセミナーでは、直接講演を伺うことができました。「デフォルト戦略」についての説明の中で、「日本人だろうがアメリカ人だろうが、焼き肉の最後の一切れに手を出すことに躊躇するのは同じ」(意思決定を行う際の不確実性が低ければ、一見すると文化的振る舞いの差として見えるものは消失する)というたとえ話を挙げられていたのを覚えています。 

最近のお買い物

 

 

 Whole Foodsにて購入しました。乾燥肌の自分にはあっていると感じますが、ローズの香りが若干きついところがあります。なお、日本で言うところの化粧水は"toner"になり、"lotion"だと基本的にクリーム状のものになります。 

  

 

 これもWhole Foodsにて。入浴中に手にはめて石鹸を泡立てられるという手袋です。ゴシゴシと力を込めて体を洗えるのが気持ちよいです。

  

 

 ”Pusheen the Cat”というゆるキャラのマグカップです。自宅用にAmazonで購入しました。手足の短さが個人的にツボです。

   

 

 昔から胃が弱く、胃炎に罹ったこともあるのでちょっと気を遣っています。Amazonで購入できましたが、日本で買うよりも割高のようです。

 

Paul J. Silvia (2007) How to Write a Lot: A Practical Guide to Productive Academic Writing

 

How to Write a Lot: A Practical Guide to Productive Academic Writing (LifeTools: Books for the General Public)

How to Write a Lot: A Practical Guide to Productive Academic Writing (LifeTools: Books for the General Public)

 

 

 論文執筆の生産性向上に関する本です。ちなみに著者のあとがきによると、「いかにしてふだんの仕事の週に不安と罪の意識を感じずにより生産的に執筆するか」(How to Write More Productively During the Normal Work Week With Less Anxiety and Guilt)というタイトルが正確であるけれども、それでは売れないから違うタイトルにしているとのことです。

 本書でも引用されているRobert Boiceの研究を読んだことがあったので、同様のアドバイスがいくつも挙げられていました。たとえば、生産性を上げるためには、締切前に一気に書き上げるやり方(binge writing)ではうまくいかず、毎日執筆する習慣が必要であることなどです。ただ、毎日執筆する習慣が大事とは言っても、それを身につけるのはやはり難しいので、本書はその面での有益な内容が含まれていました。

 具体的には、著者は一日の中で執筆に当てる時間を決めるべきと言っています。よく執筆が停滞している理由として、「執筆のための時間がない」というものがありますが、著者はこういった言い訳も次々に切って捨てます。「授業をする時間がないと言う大学教員はいない。なぜなら授業の時間はカリキュラムに組み込まれているからだ。論文執筆も毎日のスケジュールに組み込めばよい」というのです。著者自身は平日の午前中を執筆に当てており、メールの返信などそれ以外の仕事はしないとのことです(そういえば、私の学部時代の指導教官も、30代の頃は午前中にどんな仕事を頼まれても断っていたと仰っていましたねえ)。

 またもう一つ重要だと思ったのは、毎日の目標を立て、かつその進捗をモニタリングすべきということです。たとえば、「今日は200語書く」、「昨日書いた初稿を読み直し、修正する」などの例を挙げています。モニタリングの方法として、著者はスプレッドシートに達成状況を記録し、かつ今日は何語書いたかまで記録しているというのには驚かされました。

 自分もこの1ヶ月、本書のアドバイスに従って、平日の午前中はなるべく執筆に当て、毎日の目標と達成状況をExcelファイルに記録してみました。毎日決まって執筆時間を作れたわけではなく、習慣になったとは言い難いのですが、だいたい1本論文が書けました。進捗をモニタリングするということは今までやったことがありませんでしたが、適切な目標設定ができていたかを反省的に学べるのはよいことだと思いました。また、「今日やるべきことは終わったから、もう帰ってもよいか」と仕事の区切りがつけやすくなり、健康上・精神衛生上もよい面があるかもしれません(「タイム・バインド」の問題の緩和?)。

チャールズ・デュヒッグ『習慣の力 The Power of Habit』

 

習慣の力 The Power of Habit (講談社+α文庫)

習慣の力 The Power of Habit (講談社+α文庫)

 

 

 タイトルだけ読むと安易な自己啓発本っぽく見えますが、脳科学・心理学の新しい知見が含まれていることにくわえ、様々な興味深い事例が紹介されており、よい本でした。詰まるところ、人間の行動は少なからず意思ではなく習慣から来ており(本書によれば4割)、よい習慣を確立することが大事ということです。

 「キーストーン・ハビット」という概念を新しく知りました。これは、ある習慣を確立することで、それが他の習慣にも波及してよい結果をもたらすというものです。たしかに自分を振り返ってみても、運動をちゃんとしていると、食生活や生活リズムも整えようという傾向が強まるという経験がありましす。

 「習慣」と聞くと、つい個人のことのみを考えてしまいがちですが、本書では個人の習慣→組織の習慣→社会の習慣と後半の章になるにつれて展開されており、成功している企業が従業員のどのようによい習慣を見につけさせたかや、なぜ特定の社会運動は成功することができたかということなどが書かれています。ちなみに社会運動の事例として、1955年にモンゴメリーで起きたバスのボイコットが採り上げられていますが、この成功理由として運動の中心となったローザ・パークスの持つ社会的ネットワークに注目されており、マーク・グラノヴェッターの弱い紐帯の理論を引用してくるのは予想がつきませんでした。というか、社会的ネットワークを「習慣」という視点から捉えるという発想が自分の中にありませんでした(継続的な相互作用・取引関係といった言い方はしますが)。

 事例として興味深かったのは、アメリカの小売りチェーンであるターゲットが顧客の情報を分析して成長したというものです。過去の購買履歴から最適なクーポンを送付するという、いわゆるビッグデータ分析に関わるものですが、単に顧客の「習慣」を見極めるにとどまらず、妊娠している人々をいかに判別して不快に思われないようにクーポンを送付するか、そもそもそのようなマーケティング行為が道徳的によいかどうかといった内容でした。

 また最終章では夢遊病やギャンブル依存という、習慣と病気の境界的な事例が扱われ、夢遊病者が起こす犯罪はしばしば責任能力がないとみなされて無罪となるにもかかわらず、ギャンブル依存者の行動には意志があって責任が伴うと人々が感じるのはなぜなのか、という倫理の問題が提起されています。