Bloome, Dyer and Zhou (2018) "Educational Inequality, Educational Expansion, and Intergenerational Income Persistence in the United States"

 

Bloome, Deidre, Shauna Dyer, and Xiang Zhou et al. 2018. "Educational Inequality, Educational Expansion, and Intergenerational Income Persistence in the United States." American Sociological Review 83(6): 1215-53.

 

 データと方法の箇所を中心に。考察も面白いことがいろいろと書かれているのですが、だいぶ長いのでここら辺で。

 

  • 世代間の所得持続性(intergenerational income persistency)に関して、教育は2つの重要な役割を担う
    • (1)「教育の不平等」:高所得の親は高学歴の子どもをより育てやすい
    • (2)「教育のリターン」:高学歴の人々はより高所得になりやすい
  • 近年、アメリカでは教育の不平等、教育のリターンともに増大している
  • こうした変化から、世代間の所得持続性も強まっているという予測が可能なものの、実際のところは安定している
  • この問題を解くためには、もう一つのトレンドとして、教育拡大を考慮する必要がある
  • 教育の拡大によって低所得家庭の子どもがより大学に進学し、大学教育の恩恵を受けることで、世代間の所得持続性は弱まる可能性がある
  • NLSY79とNLSY97の分析によって、教育の不平等と教育への経済的リターンの拡大により、世代間の所得持続性は強まったことを確認する
  • 高等教育の拡大はこの持続性を弱める働きをしているものの、その規模は教育の不平等とリターンの拡大による持続性の強まりに対して、3分の1程度しかない
  • 世代間の所得持続性が安定して推移しているのは、さらにもう一つのトレンドとして、それぞれの学歴内において子どもの将来の所得に対する親の所得の予測力が弱まっているためである
  • この理由として、大人への移行にかかる期間が長くなったこと、仕事の不安定化、所得の不安定さ(volatility)が増したことが考えられる
 
  • 世代間の所得持続性は通常、成人した人々の所得をその親の所得に回帰した際の係数 \betaによって測られる
  • 所得は年齢・測定誤差・家族の人数を考慮して調整されることが多い
  • 伝統的に、所得は対数変換され、 \betaを世代間の所得の弾力性として解釈されてきた
  • より近年では、所得を順位に変換し、それぞれの世代における順位の相関、つまり相対的な持続性として捉えるようになっている
 
  • 分解によるアプローチと、モデルベースのアプローチを採用する
  • 分解アプローチでは、(1)教育拡大、(2)教育の不平等とリターンの拡大、(3)学歴内における親の所得による予測力の影響を分離する
  •  \beta = \sum_{g}\pi_{g}B_{g}

  = \sum_{g}\pi_{g}(B_{g}^{b}+B_{g}^{w})

  =\sum_{g}\pi_{g}(\frac{(\mu_{ga}-\mu_{a})(\mu_{gp}-\mu_{p})}{\sigma_{p}^{2}}+\beta_{g} \frac{\sigma_{gp}^{2}}{\sigma_{p}^{2}})

  •  B_{g}^{b}は学歴間の連関を表すものであり、親と子の所得順位の共分散 (\mu_{ga}-\mu_{a})(\mu_{gp}-\mu_{p})を親の所得順位の分散 \sigma_{p}^{2}で割ったものとして表される
  •  \mu_{ga}-\mu_{a}は教育のリターンの差異、 \mu_{gp}-\mu_{p})は教育の不平等の差異を反映している
     B_{g}^{w}は学歴グループ gの中で、世代間の所得持続性がどの程度あるかを表す
  • NLSY79とNLSY97における係数 \betaの変化を次のように表せる
  •  \beta^{97}-\beta^{79}=\sum_{g}\pi_{g}^{79}(\frac{(\mu_{ga}^{97}-\mu_{a}^{97})(\mu_{gp}^{97}-\mu_{p}^{97})}{\sigma_{p,97}^{2}}-\frac{(\mu_{ga}^{79}-\mu_{a}^{79})(\mu_{gp}^{79}-\mu_{p}^{79})}{\sigma_{p,79}^{2}})

  +\sum_{g}\pi_{g}^{79}(\beta_{g}^{97}\frac{\sigma_{gp,97}^{2}}{\sigma_{p,97}^{2}}-\beta_{g}^{79}\frac{\sigma_{gp,79}^{2}}{\sigma_{p,79}^{2}})

  +\sum_{g}B_{g}^{97}(\pi_{g}^{97}-\pi_{g}^{79})

  • 3つの項はそれぞれ、(1)学歴間の所得格差の上昇、(2)学歴内の世代間所得の予測力の変化、(3)教育拡大による寄与を表す
 
  • 分解アプローチは、教育の不平等の拡大と教育へのリターンの変化の同時的な寄与しか測ることができない
  • さらに分解アプローチは、教育拡大によって学歴内の平均所得は変化しないという仮定を置いている
  • モデルベースのアプローチによってこうした強い仮定を緩和することができる
  • これは2段階に分けられ、第一段階では一般化順序ロジットモデルによって、親の所得順位から子どもの教育達成を予測する
  • 第二段階では、予測された教育達成を用いて、子どもの成人期における所得を予測する
  • こうして得られた所得の予測値を順位に変換する
 
  • データはNLSY79(1974~2014年)とNLSY97(1997~2015年)
  • 調査開始時点のサンプルは、NLSY79が14~22歳、NLSY97が12~18歳
  • 比較可能性のために、NLSY79のサンプルは14~18歳に限定
  • 親の世帯所得は調査開始から最初の5年間、子どもの成人期の世帯所得は27~32歳の平均をとる(1年分しか所得が回答されていない場合には除外)
  • 世帯所得には、EITCとCTCの推定値も追加
  • 性労働や同類婚の重要性を考慮して、世帯の合計所得によって労働供給の同時的な意思決定を捉える
  • 所得は個人消費支出指数(personal consumption expenditures index)によって平準化し、家族人数の二乗根によって調整する
  • 学歴は6グループ(高卒未満、高卒、大学中退、準学士、学士、修士以上)に分類
  • 男女で同様の結果であるため、主な分析では男女を統合
 
  • 教育拡大は、世代間の所得持続性の低下に貢献している
  • しかし、教育の不平等・教育へのリターンの増大による所得持続性の増加規模に対して、教育拡大による平等化への貢献は3分の1程度でしかない
  • 学歴内において、親の所得による子どもの成人所得の予測力が低下しているため、世代間の所得持続性はコーホート間で安定している
  • パス解析の伝統に基づく用語を用いれば、親の所得による子どもの教育を通じた「間接効果」は増大しているものの、子どもの教育を介さない「直接効果」は弱まっているのである

 

タニタ 体組成計 BC-765-WH

 

 

 体重計を新しく買いました。この価格帯では高機能なのでしょうか、体脂肪率・筋肉量・内臓脂肪レベル・基礎代謝量の推定値と、そこから独自の式で計算されているという体内年齢を表示してくれます。

 さっそく何度か測ってみたのですが、21歳前後の値が出るので、ちょっと怪しく感じています。体重の割に筋肉量が多く、基礎代謝量が高めに推定されているということのようです。ランニングは継続しているものの、ウェイト系のトレーニングはしていないので、そんなに基礎代謝量が高いとは思っていませんでした。

 

 ちなみにランニングはこれまで主に朝に行っていましたが、ここ2日は夜に走ってみました。夜に走るメリットとしては、

  • 起床後すぐに走ったときのようなエネルギー不足感がない
  • 1日の終わりなので、あまり疲労を考えずに好きなだけ走れる
  • シャワーを浴びる回数が増えなくて済む

といったところでしょうか。

 デメリットとしては、歩行者に不審に思われる確率が高まることが挙げられるかもしれません。なるべく歩行者を追い抜くときには距離をとるようにはしていますが、昨日は比較的細い道で中年の女性に、「何だこいつ!?」みたいな反応をされてしまいました。まあ、申し訳ないけれども仕方がありません。

Clark (2005) "Why Environmental Scientists are Becoming Bayesians"

 

Clark, James S. 2005. "Why Environmental Scientists are Becoming Bayesians." Ecology Letters 8: 2-14. 

 

 実用的な観点からベイズ統計を見た際に、結局のところが何がよいのかという関心から、それなりの数の論文を読んできたつもりなのですが、いまいちしっくり来ないところがありました。「頻度論vs.ベイズ」ではなく、「頻度論・単純ベイズvs.階層ベイズ」という図式を設定している本論文は、とてもよい説明だと思いました。生態学と社会人口学のモデルに若干似ているところがあるのも、実用性における関心が近くなる理由としてあるのかもしれません。

 

イントロ
  • 複雑なモデルにおいて、大量の「効果」を特定すると、現在のデータにはよく適合するものの、異なるデータへの予測力がほとんどないという、過剰適合(overfitting)を起こしてしまう
  • モデリングの制約のために多くの複雑性は無視されてきたものの、階層ベイズよって柔軟に行うことが可能になった
  • 階層ベイズは不確実性を扱う唯一の方法ではないものの、複雑なシステムを一貫したフレームワークで捉えることが可能なアプローチとして際立っている
 
哲学と実用主義
  • 古典的アプローチと単純ベイズの間の哲学的な違いを、多くの研究は強調してきた
  • もちろん古典的な仮説検証や事前分布の役割については多くを語ることができるものの、哲学的な問題は近年の計算統計学の発展における主要な動機とはなっていない
  • 古典的アプローチにおける信頼区間と、ベイズ信用区間には重要な違いがあるとは言えない
  • もしベイズによってより多くの労力が必要であるにもかかわらず、同じ解釈に至るのであれば、なぜベイズに頭を悩ませるのだろうか
  • この論文で強調するのは、現代的なベイズは哲学とほとんど関係がなく、むしろ実用主義から来ているものだという見方をとる
  • ベイジアンはパラメータを「ランダム」であると言い、頻度論者はそうは言わないものの、実際のところ単純ベイズは古典的アプローチと同様に、潜在的に「真の」パラメータの値が存在し、サンプルサイズの増大によってその値に近づくことができるという、頻度論者における信頼区間と同様の仮定を共有している
  • 階層ベイズは、「パラメータ」がばらつきうるという意味において、この仮定を弱めるのである
 
単純ベイズから階層ベイズモデルへ
複雑性の分解
  • 階層ベイズはほとんどすべての高次元問題を捉えるフレームワークをもたらし、1990年代以降の計算統計学を変容させた
  • 伝統的分析は、決定論的プロセスの外側に確率的な構造があり(たとえば、「標本分布」)、プロセスモデルでは考慮できないデータのばらつきに対処している
  • この決定論的プロセスと確率的な外見が合わさって、尤度関数を構成している
  • 尤度関数は多くの推論において中心的な役割となるものの、それだけでは複雑な関係に対応することができない
  • 階層ベイズは複雑性を異なる水準に分解することで対処を可能にすることができ、それは次のように記述できる
  •  p(パラメータ|モデル,データ)\propto p(データ|プロセス、データに関するパラメータ)

  \times p(プロセス|プロセスに関するパラメータ)\times p(全パラメータ)

 
単純ベイズ
  • ベイズの文脈におけるパラメータの解釈には大きな混乱が残り続けており、古典的アプローチと単純ベイズの違いとして、ベイズのパラメータが「ランダム」であることが強調されることが多い
  • しかし、ランダムなのは「推定値」であり、パラメータ自体ではないのである
  • 事後分布は生態学者が言うところの不確実性(uncertainty)を記述するものであり、ばらつき(variability)や変動(fluctuation)を表すものではない
  • 推定値が確率的であることによって、データの蓄積につれての「学習」を可能とする
  • しかし、単純ベイズは頻度論的アプローチと同様に、パラメータそれ自体は固定された定数であるという仮定を共有しており、一般的に信じられているよりも古典的アプローチと単純ベイズは矛盾していないのである
  • 実用主義的な観点からは、単純な問題に対してベイズを用いる利点がないのであれば、古典的アプローチがより便利であると主張することもできるだろう
  • 古典的アプローチはすべての負荷を尤度に置くため、複雑な問題に進むに従ってその限界が明らかになる
 
階層ベイズモデル
  • 確率過程をもたらす原因が複数ある場合
  •  p(\theta_{1}, \theta_{2}, \theta_{3}|x,y)\propto p(y|\theta_{1}, \theta_{2}, x)   likelihood

   \times p(\theta_{1}|\theta_{3})p(\theta_{2})  prior

   \times p(\theta_{3})  hyperprior

  • θ1は個人間でばらつきうる要因である
  • θ1は中間の段階に位置するため、サンプルサイズの小ささによる影響('asymptotic collapse')を受けない
  • θ2とθ3はより低次の段階に条件付けられていないので、サンプルサイズの影響を受ける
  • 階層構造によって、複数のレベルにおける確率過程が許容される
  • 「プロセス全体はどのように動いているのか」ではなく、「この要素は、それに直接影響を与える要素を条件づけた場合にどのように動いているのか」を問うのである
 
「単純な」人口学的プロセスへの適用
  • 木々の繁殖能力は、その直径に対して相対成長関係を持つと想定されている
  • しかし、すべての同じ大きさの木が同じ数の種子を生むとは期待できず、またこのばらつきは観測変数によって説明するのは難しい
  • つまりランダム効果の存在と、プロセスモデルが確率的であることが示唆される
  • 確率過程を十分に考慮することによって第一に、実際に観察される要因のみを条件づけ、モデルの仮定を違反しないように不確実性を取り入れたデザインが可能になる
  • 第二に、既存研究は種子の繁殖のスケジュールに関して単一のパラメータを特定しており、非現実的であったものの、より詳細なスケジュールを表現可能になる
 
予測プロセスにおける階層ベイズのより広い役割
  • かつての生態学的モデルにくらべ、高次元性の問題のほとんどは確率的要素から生じている
  • ある効果が観測できないからといって、それを無視してよいという理由にはならない
  • 複雑な決定論的なモデルとは異なり、すべての関連する要素を観察はできなくとも、前に進むことが可能なのである

SSDへの換装作業(Panasonic Let's note CF-SX3)

 

 4年半くらい前に購入したLet's note(CF-SX3)の動作がかなり遅くなってきました。特にEvernoteWindowsクライアントが頻繁に動作を停止してストレスが溜まるので、HDD(1TB)からSSD(500GB)に換装する作業をしました。

 

 

 主に上の記事を参考にさせていただき、SSDと接続用のケースを準備しました。

 

 

 SSDのフォーマットは問題なく終わったものの、元のディスクからのクローン作成を、EaseUS Todo Backupを使用して行う段階でエラーが発生しました。

 


 上の記事などを参照していろいろと試行錯誤し、(1)コマンドプロンプトからディスクの修復を行う、(2)AOMEI Backupperに代えて実行してみる、(3)エラーが出た際に作成された「EFI システムパーティション」を削除してもう一度クローンを作成するというような手順を経て、ようやく成功しました。クローン作成後にHDDとSSDを入れ替え、最後にAOMEI Partition Assistantで未使用領域をCドライブに統合して完了です。結局1日では終わらず、思ったよりも時間を取られてしまいました。

 

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HDDの測定結果

 

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SSDの測定結果

 

 CrystalDiskMarkによるディスクの読み書き速度の比較です。連続した領域・ランダムな領域の読み書きともに、大きく数値が向上しました。体感としても動作が快適になり、時間は若干かかったものの、PC自体を買い換える必要もなく満足な買い物になりました。

 

矢野眞和(2005)『大学改革の海図』

 

[高等教育シリーズ] 大学改革の海図 (高等教育シリーズ)

[高等教育シリーズ] 大学改革の海図 (高等教育シリーズ)

 

 

 大事なのは、理念と経済の関係、そして理念と実態の関係を考えることである。日本の教育界は、理念と経済の「慢性的分離病」に疾患している。「教育論と財政論を分離しなければならない」というのが、日本政府の教育政策論議のテーゼになっている。驚くべき印象である。第III部で説明するように、大学の民営化は日本の教育を悪くすると私は考えている。しかし、市場化よりも悪いのは、理念と経済の慢性的分離病だと私は診断している。今日の大学改革の混乱は、市場化の潮流そのものに原因があるのではない。慢性的分離病患者が大学改革を混乱させている。

[p. 32-33]

 

 国立大学が法人化された頃に出版された本ですね。出版は2005年ですが、中心になっている14大学の事例分析は、2003~2004年に連載された原稿が元になっているようです。

 すでに15年ほど前に書かれたものになるわけですが、現在読んでも当てはまる分析・主張が多くあります。矢野先生の立場は以前から一貫して変わっていないのですが、にもかかわらずいつ読んでも新鮮なのですね。

 先日読んだ吉見先生の大学改革論も勉強になりましたが、吉見先生が対象としているのは基本的にエリート大学に限定されています。それに対して、矢野先生は「『多くの若者が学ぶ普通の大学を世界一の水準にすること』を将来像の目標にするのが望ましい」(p.251)という立場であり、本書でも非エリート大学の改革事例が多くなっています。

 吉見先生の本との共通性で言うと、大学経営を専門家による意思決定に移行させるべきということが本書でも強調されていますね。D.A. ガービンとG. ハーマンのモデルを参照し、(1)同僚モデル、(2)官僚モデル、(3)市場モデル、(4)専門モデル、(5)政治モデルという分類によって、理念と資金配分方式の次元から整理されています。

吉見俊哉(2018)『トランプのアメリカに住む』

 

 

トランプのアメリカに住む (岩波新書)
 

 

たしかに東大とハーバードの学部学生の知的な反応を比較するならば、私にはほとんど差はないと感じられた。しかし、教育の仕組みやその根底にある大学についての考え方がまったく違うのである。一言で言うならば、大学の根幹が何よりも高度な「教育」にあること、その基本の仕組みが教員個人の責任においてではなく、大学という機関によって組織的に用意され、授業の情報や成績評価の妥当性、教育の質が徹底的に可視化されている点で、ハーバードは日本の国立大学の現状と大きく異なっていた。

 

 吉見先生の2017年9月~2018年6月のハーバード大学滞在の経験に基づいた著作です。(1)ポスト真実化、(2)階級、(3)ナショナリズムと人種主義、(4)性差別と暴力という4つの次元が設定され、これらを章ごとに当てはめて、トランプに象徴される現代アメリカ社会を多角的に分析しています。

 これら4つの次元とは外れ、「トランプのアメリカ」とも直接は関係ないのですが、ハーバードでの教育経験から日米の大学教育システムを比較している第3章をもっとも興味深く読みました。

 それ以外の章に関しては、吉見先生は基本的にはカルチュラル・スタディーズの枠組みで仕事されてきている方なので、自分には若干肌に合わない議論もところどころに見られます。ただ、リチャード・ローティ文化左翼批判をどのように受け止めているかというところは、立ち位置を覗えてよかったです。

 

  • 東大とハーバードの違いの根幹は、大学教育を個々の教師の営為に委ねるか、エリート育成の総合的システムとして運営するかの違いにある
  • ハーバードでは授業の前に、10ページにわたる詳細なシラバスを作成する必要がある
  • 日本の大学のシラバスが商品を売り込むためのカタログ程度のものであるとすれば、アメリカの大学のシラバスは学生との契約書である
  • 別のメタファーを用いれば、シラバスは授業というドラマの上演に際し、「教師と学生が共有するシナリオ」である
  • 学生が課題文献を読みこんで前提を共有し、TAが議論をリードしてくれることによってシラバス作成後の授業運営の負担は日本の大学よりも小さい
  • 日本の大学では、大学院のレベルですら教師と学生が相互に質問と答えをキャッチボールすることはあっても、学生間で議論が深められていくことはめったにない
  • 中学高校段階から議論する習慣を育成するのは教育行政全般に関わることで、大学だけの力でどうにかできるものではないが、課題文献の予習を通じた問題関心の共有化は、大学自身の努力で改善可能な事項である
  • 課題文献の選択が適切で、学生が興味をもってその文献を読んでいれば、講義自体の出来栄えは不十分でも議論は活発化する
  • 対話式の授業を実施しても、教師は正解を常に持っているという前提を崩さない限り、創造的な対話は生まれない
  • 教師が授業というドラマの主役ではなく、TAや学生が主役となるような演出家としての役割に転換できれば、形ばかりの対話的授業ではないアクティブラーニングが実現できる
  • シラバス・TAの整備は日本の大学においても進められているが、アメリカの大学とは似て非なるものである
  • 問題の根本にあるものは、日本の大学では一学期に学生が履修する科目が多すぎることである
  • アメリカの大学で学生が履修するのは一学期に4~5科目なのに対して、日本では10~12程度であり、この履修科目数の差が日本の大学における学びの構造的な薄さを生み出している
  • 大学教授たちは、日本の大学ではアメリカの大学よりも概してずっと多くの科目を担当している
  • それぞれの科目単位での負担が相対的に軽いから、担当科目の数が多くても日本の教師はなんとかやっていける
  • アメリカの大学で発達した仕組みを日本に導入していくうえでの一丁目一番地は、学生が一学期に取得する科目数を半減させることである
  • ハーバードでは各分野で決定権を持った職員がおり、意思決定の専門化と分業化が巨大組織の運営を効率化している
  • 日本の大学教授は、自分たちが結果的に保持している意思決定のある部分を積極的に手放すことによって、初めて過剰な大学業務から解放される

 

根来秀行(2018)『ハーバード&ソルボンヌ大学 根来教授の超呼吸法』

 

ハーバード&ソルボンヌ大学 根来教授の 超呼吸法

ハーバード&ソルボンヌ大学 根来教授の 超呼吸法

 

 

メモ 
  • 巷に存在する呼吸法は、効果を実感できるものの科学的なエビデンスが少ないのが現状
  • 疲労とは、医学的には運動や労力などの「身体作業負荷」、あるいはデスクワークなどの「精神作業負荷」を、連続して与えたときにみられる「身体的あるいは精神的パフォーマンスの低下減少」と定義される
  • 端的に言えば、「脳疲労とは、脳にある自律神経の中枢を使いすぎたことで、その部分が酸化ストレスにさらされ、本来の働きが滞っている状態」
  • ニューロン細胞にくらべてグリア細胞はその働きが今までわかっていなかったが、睡眠中にグリア細胞は縮んで脳細胞間に隙間をつくることで老廃物を排出する経路を形成することがわかってきた
  • 疲労を蓄積させないためには、24時間単位の「サーカディアンリズム」だけでなく、20時間未満の「ウルトラディアンリズム」に即した生活を送る
  • 脳波は90分単位で推移しており、機能的に集中力を保てるのは90分程度
  • 90分単位で休憩を取り、副交感神経を高めて毛細血管を開く呼吸法を取り入れるのがおすすめ
  • 交感神経が高まったまま眠っても、睡眠本来の目的である修復・再生が進まない
  • 脳は臓器の中でも酸素不足に弱く、酸素が足りていないと集中力が落ちたり、眠気やだるさに悩まされたりすることになる
  • 呼吸には、息を吸って吐く肺呼吸(外呼吸)と、全身の細胞レベルで行われる細胞呼吸(内呼吸)の2段階がある
  • 腰痛や肩こりは、腰や肩まわりの筋肉細胞が酸素不足なって硬直し、不調があらわれた結果
  • 毛細血管では、肺から運んできた酸素を各細胞へと受け渡すだけではなく、各細胞内外をクリーンに保つため、老廃物や二酸化炭素を受け取る→この細胞レベルでの酸素と二酸化炭素の受け渡し(ガス交換)を「細胞呼吸(内呼吸)」と呼ぶ
  • 血中の二酸化炭素は多すぎると呼吸性アシドーシスを引き起こすが、少なすぎるとヘモグロビンが酸素切り離す割合が減少し、細胞呼吸の効率が低下する
  • 肺呼吸(外呼吸)で取り込む酸素が多ければ多いほど、細胞呼吸の量が増えると勘違いしがちであるが、実際はそうではない
  • 二酸化炭素が体内に不足する一番の原因は過呼吸
  • 集中力の中でも特に短期集中に効果がある脳内ホルモンは「ノルアドレナリン」であるが、これは呼吸によってバランスを変えられる
  • 浅い呼吸を続けていると交感神経が優位となり、肩こりや便秘、手足のしびれ、胃腸炎などの不調が顕在化する
  • 睡眠に関わるホルモンの代表はメラトニンであるが、メラトニンは呼吸に深く関わるセロトニンをもとにつくられるので、呼吸を正すことで睡眠の質を高めることができる
  • 自律神経はホルモンと並ぶ体の二大制御機構の1つであり、意思とは関係なく24時間働いている
  • 呼吸法こそが、無意識下で働く自律神経に意識的に介入できる唯一の方法
  • 呼吸によって自律神経を調整するためには、呼吸筋の中の横隔膜に刺激を与える必要がある
  • 横隔膜周辺には自律神経が集まっているため、腹式呼吸をすることで副交感神経が優位となる
  • 細胞呼吸で使われずにあまった酸素の一部は活性酸素となり、細胞を傷つける側となって働いてしまう
  • 体内の二酸化炭素濃度が下がっている場合には、適切に外呼吸数を減らす必要がある
  • 外呼吸数を減らすと取り込まれる酸素の量も減るものの、そもそも血中の酸素濃度は基本的に足りているため、日常生活に支障がでるような影響はない
  • 体の機能は加齢ととともに老化するが、自律神経も老化する
  • しかも年齢の影響を大きく受けるのは副交感神経のみ
  • 副交感神経の機能が老化すると、交感神経が下がらず、眠たいのに眠れないということが起きる
  • ノルアドレナリンは集中力をアップさせるホルモンであるが、過度に働くと緊張や不安が高まって脳がフリーズする
  • ノルアドレナリンの暴走を抑える働きをするのがセロトニン
  • セロトニンが活発になると、思考や創造性を担う前頭前野も活発になる
  • 呼吸法で推奨される呼吸回数や姿勢はあくまで目安であり、一番の目的は横隔膜を上下させて副交感神経スイッチを入れること
  • 検診では引っかからないものの、「なぜだか疲れがとれない」という不定愁訴がある場合は、毛細血管の機能が落ちているのがほとんど
  • 60代になると20代にくらべて毛細血管の数が4割減る
  • 血糖値が高いと毛細血管の内壁が傷つけられてしまうため、ゆっくり咀嚼して食べるのは生活習慣の中でも改善しやすくおすすめ
  • 体内のリズムを整えるためには、最低でもメラトニンが分泌されている午前9時までには起きて日光を浴びることが必要
  • 入眠後最初の90分間のノンレム睡眠は、睡眠全体の中でももっとも深い眠りである
  • 細胞の修復・再生に欠かせない成長ホルモンも最初の90分のノンレム睡眠中にピークとなる
  • そのため、最初の睡眠でつまずくと、その後にどれだけ長く眠っても疲れがとれない

 

感想
  • マインドフルネスや座禅の本を読んで、何となく体感としては正しいと思っていた断片的な実践の数々を、理論で補強してもらったという感じです
  • 「横隔膜を上下させる」のが大事というアドバイスは個人的にわかりやすく、正しい腹式呼吸の感覚をようやくつかめたという気がしました
  • ところで、こういう本も読みましたが、出版社は違ってもこの手のタイトルをつけなければいけないという暗黙のルールでもあるのでしょうか