矢野眞和(2005)『大学改革の海図』
大事なのは、理念と経済の関係、そして理念と実態の関係を考えることである。日本の教育界は、理念と経済の「慢性的分離病」に疾患している。「教育論と財政論を分離しなければならない」というのが、日本政府の教育政策論議のテーゼになっている。驚くべき印象である。第III部で説明するように、大学の民営化は日本の教育を悪くすると私は考えている。しかし、市場化よりも悪いのは、理念と経済の慢性的分離病だと私は診断している。今日の大学改革の混乱は、市場化の潮流そのものに原因があるのではない。慢性的分離病患者が大学改革を混乱させている。
[p. 32-33]
国立大学が法人化された頃に出版された本ですね。出版は2005年ですが、中心になっている14大学の事例分析は、2003~2004年に連載された原稿が元になっているようです。
すでに15年ほど前に書かれたものになるわけですが、現在読んでも当てはまる分析・主張が多くあります。矢野先生の立場は以前から一貫して変わっていないのですが、にもかかわらずいつ読んでも新鮮なのですね。
先日読んだ吉見先生の大学改革論も勉強になりましたが、吉見先生が対象としているのは基本的にエリート大学に限定されています。それに対して、矢野先生は「『多くの若者が学ぶ普通の大学を世界一の水準にすること』を将来像の目標にするのが望ましい」(p.251)という立場であり、本書でも非エリート大学の改革事例が多くなっています。
吉見先生の本との共通性で言うと、大学経営を専門家による意思決定に移行させるべきということが本書でも強調されていますね。D.A. ガービンとG. ハーマンのモデルを参照し、(1)同僚モデル、(2)官僚モデル、(3)市場モデル、(4)専門モデル、(5)政治モデルという分類によって、理念と資金配分方式の次元から整理されています。