Raymo and Shibata (2017) "Unemployment, Nonstandard Employment, and Fertility: Insights From Japan’s 'Lost 20 Years'"

Raymo, James M. and Akihisa Shibata. 2017. "Unemployment, Nonstandard Employment, and Fertility: Insights From Japan’s 'Lost 20 Years'." Demography 54(6): 2301-29.

 

 「失われた20年」における雇用環境の変化が、男女で異なるメカニズムを通して出生率に非対称な効果をもたらしているという仮説が検証されています。

 

  • 慶應の家計パネルからパーソンピリオドデータを作成しています。調査開始(2004年)以前の出生については、回顧的に特定することになるので、若干テクニカルな点についての補足がされていました。データの構造上、同居している子どもの年齢から出生年を特定することになるものの、調査時点で18歳以上の子どもはすでに同居していなくなっている可能性があるので、分析から除外せざるをえない対象者がいたとのことです。
  • パーソンピリオド上で20~40歳に該当する出生イベントから、各年の合計特殊出生率を推定。日本の場合には婚外子が少ないことを利用して、t年の出生率=(t年の出生イベント数/t年に結婚している女性の数)×(t年に結婚している女性の数/t年に結婚している女性の数)という分解をしています(未婚女性の出産イベント数は無視できる)。
  • 観察されたデータから推定された出生率と、失業率・非正規雇用率を1980年水準に固定した場合の反実仮想的な出生率を比較しています。Raymo先生がよく用いている手法であるという印象で、おそらく"purging"と呼ばれるものと同じ手続きかと思います。
  • 反実仮想的な分析を通して、男性の失業率・非正規雇用比率の増加は、婚姻率の減少を通して出生率の低下に寄与しているのに対して、女性の失業率・非正規雇用の増加は、婚姻率の変化はもたらさなかったものの、機会費用の変化(雇用労働よりも子育てにかける時間の相対的な価値が上昇したこと)によって出生率の増加に寄与したという結論が得られています。Raymo先生の他の論文でも見られるパースペクティブですが、男性稼ぎ主モデルが根強い社会において、男女で非対称な変化が起きているという解釈になっています。