先崎学(2018)『うつ病九段――プロ棋士が将棋を失くした一年間』

 

うつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間

うつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間

 

 

 『3月のライオン』の監修で知られるプロ棋士、先崎九段の近著です。昨年の秋に起きた将棋界の騒動に巻き込まれたストレスの影響で、しばらくうつ病に罹っていた自らの経験を記したエッセイになっています。

 本書で何度も強調されており、印象に残ったのは「うつ病は脳の病気である」というものでした。うつ病の原因には遺伝的・環境的なものが複雑に絡み合っており、正確には分かっていないようです。ただ、著者の症状として簡単な活字のニュースが頭に入らなかったり、本来ならば一瞬で解けるはずの詰将棋も解けなくなったという部分を読むと、うつ病は単なる心の病気では決してないのであるということが説得的に伝わってきます。

 著書や週刊誌などでの連載経験も多くある方だけであり、病み上がりとは言え文章はさすがに読ませるものがあります。入院からの回復期において同じような日々の記録が繰り返されていてやや冗長な部分もありますが(朝起きられない、ひたすら散歩に行くなど)、後書きでは「エピソードがもともと少ない上に、頭がしておらず、気がづいたら回復していた」状態であったと断られています。

 うつ病の症状・回復に関するエッセイは類書もそれなりにあるのかもしれませんが、やはりそれなりの社会的地位のある人が自らの経験を赤裸々に語っているというのは貴重だと思います。