中島岳志(2013)『「リベラル保守」宣言』

 

「リベラル保守」宣言 (新潮文庫)

「リベラル保守」宣言 (新潮文庫)

 

 

 エドマンド・バークの伝統に基づく、保守主義のエッセンスをわかりやすくまとめ、その思想を「原発問題」、「橋本政治」、「大東亜戦争」などの近年の政治・社会問題に適用しています。

 わかりやすさを重視してあえてやっている感じはするのですが、一方的に保守主義の主張を並べているきらいがあります。本書がしばしば批判の対象としている、「(旧来的)左派」の側からのありうる批判が少ないのが、物足りないと感じられる箇所でした。フェミニズムからの批判や、マイノリティの権利保障について著者がどのように考えているのかというのも、気になったところです。

 中間団体やコミュニティの重要性が論じられている箇所を読むと、デュルケームの社会理論には保守思想と呼べるものが色濃くあることがわかりますね。

 

  • 保守のエッセンスとして、「理性万能主義に対する懐疑」がある。
  • 保守思想が疑うのは理性そのものではなく、理性の無謬性である。
  • 個々人の理性が無謬ではない以上、他者の声に耳を傾け、熟議に基づいた漸進的な改革を保守は志向する。
  • 保守は社会の改革を否定するわけではなく、「復古」、「反動」とは異なる。
  • 理性の完成可能性を疑う保守思想にとって、宗教への関心は欠かすことができない。人間の不完全性を意識するためには超越的な存在が指標となるため。
  • トクヴィルはひたすらに福利を追求する態度を抑制するための役割を宗教が担っており、デモクラシーの健全な機能には不可欠と考えた。
  • 保守が貧困問題に対して採るべきアプローチは、日本型雇用や家族主義への遡及ではなく、中間団体の再構築による孤立化した個人への紐帯を作り出すことである。
  • 社会民主主義者の間では、「リベラル・ナショナリズム」の重要性が論じられている。それは、愛国心に基づく国民間の信頼を通じて、国家的再配分の強化とデモクラシーの活性化を目指すものである。