Holliday(2000)福祉資本主義世界における4つ目の基準

 

Holliday, Ian. 2000. "Productivist Welfare Capitalism: Social Policy in East Asia." Political Studies 48: 706-23.

 

 ここで展開される議論は、Esping-Andersenが用いている3つの基準にくわえ、4つ目の基準が必要だというものである。さらにこのことによって、4つ目の福祉資本主義の世界が明らかになる。その基準とは、福祉資本主義の範囲は福祉国家として特定可能であるほどに社会政策に強く影響された資本主義国家に限定されるべきであるというEsping-Andersenの主張の分析から現れる。この本質的に恣意的な限定は、社会政策に従事はするものの、それを他の政策目標に従属させているような資本主義国家を検証から除外してしまう。しかしながら、そうした国家が除外されるべき妥当な理由はない。むしろ、Esping-Andersenの3つの世界から分離されている社会政策の側面―他の政策目標への従属―は福祉資本主義の世界の中における4つ目の特定基準として用いられるべきである。このように見たとき、Esping-Andersenの3つの世界では(彼自身が明確にしているように)、社会政策が他の政策目標へと従属していない。自由主義的世界と保守主義的世界では、社会政策は特権化されていない。これに対して、社会民主主義的世界においては、社会政策は特権的な位置を占める。第四の、福祉資本主義の生産主義的世界においては、むしろ逆のことが事実であるという対比が見られる。この世界では、社会政策は経済成長という最優先の政策目標に対して強く従属する。他のすべて、すなわち、生産的活動に関連した拡張された最小限の社会権、社会における生産的要素の地位の強化、成長に方向付けられた国家-市場-家族関係は、ここに由来する。[708]

 

 福祉資本主義の生産主義的世界における2つの中心的な特徴は、成長志向の国家と、社会政策も含めたすべての国家政策の経済的・産業的目標への従属である。こうした定義的特徴にくわえ、一連の追加的要素が見られる可能性がある。政策立案者は促進的(facilitative)手段によって経済成長を追求しようとするかもしれない。その場合には、社会政策もまた経済成長の促進に向けて連動されるだろう。あるいは、Johnson(1982)がその古典的研究であるMITI and the Japanese Miracleで述べたように、開発主義的な立場をとり、エリート政策立案者が抜本的な目標として経済成長を設定し、その達成のために確固とした戦略をとるかもしれない。その場合には、社会政策は国家が(少なくとも社会の生産要素に対して)普遍的な福祉プログラムをつくることで普遍主義的となるか、あるいは国家が個別の福祉供給に方向づけることで個別主義的となるであろう。[709]