- 文庫版で読みました。『1Q84』と、『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』は発売後わりとすぐに買って読んだのですが、本作は少し時間が経ってしまいました。村上春樹のエッセイはいくつか読んでいたのですが、小説は昔にくらべるとなぜか読む気が下がっていて、やや今さらという感じではあります(『羊をめぐる冒険』の英訳版を買ったものの、途中でやめてしまいました)。もっとも、いったん読み始めたら、かなりのスピードで第1部を読み終えてしまいました。
- 『1Q84』、『色彩を~』と長編では続いて三人称の視点でしたが、今回は一人称なのですね。なんとなく、一人称のほうがいつもの村上春樹の小説という感じで、しっくりとは来ます。ちなみに以前に何かの媒体で、村上春樹の作品は自身が若い頃に別の生き方をしていたらという、反実仮想的な世界観を描いているというような内容を読んだ気がするのですが、どこで読んだのか忘れてしまいました。
- 書評もいろいろ出ているようですが、下記リンクで指摘されているように、たしかに「いかにも村上春樹的」というように、これまでの作品に共通する要素が多くあり、いつもの文体や言い回しで構成されています。一人称視点の小説では直近の長編となる『ねじまき鳥クロニクル』では、「デタッチメントからコミットメントへ」という主人公の心性の転換が起きたと評されますが、本作でもその路線は引き継がれているように思われました(第1部終わりまでの時点では)。
- 『職業としての小説家』では、長期的にヒットする作家は、新作が出たらとりあえず買うというファンを獲得しているということが書かれていました。むしろ同じような主題を繰り返しているほうが、ファンもルーティン的に読みやすいという面があるのかもしれません。
- ただし、絵画が物語の重要な要素になるというのは、たぶん今までなかったでしょうか。クラシックやジャズ音楽は常に密接に関わってくるものの、それらを対象とするときと同様に精緻な観察力で画家の仕事が記述されていました(もちろん本職の画家が読んだら、まったく違う印象を持つのかもしれませんが)。