- 作者: 竹内洋
- 出版社/メーカー: 東京大学出版会
- 発売日: 1995/07
- メディア: ハードカバー
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学校教育・企業内昇進におけるメリトクラシー(業績主義)について、日本的な特性を分析した本。しばしば、「日本人は努力を重視する」とか「日本人は横並び主義」などと一昔前までは言われたものだが、そのような言説に根ざしている構造を深く掘り下げたものといえる。
具体的には、ローゼンバウムの「トーナメント移動理論」の日本への適用を試みている。トーナメント移動理論とは、高校や大学の試験、企業内の昇進段階をトーナメント競争に見立てたものだ。競争の勝者は「能力の底」を保障され、次の選抜段階に進むことができる。敗者には「能力の天井」が定義され、次の選抜段階に進むことはできない(敗者復活はない)。
本書の分析によれば、日本型のメリトクラシーも敗者復活の可能性が小さい、トーナメント競争であるという。しかし、ローゼンバウムが分析した米国との違いは、競争の敗者も、熱意を失っていないというものだ。米国では、試験に失敗した者、昇進に選ばれなかった者は、それ以降の努力をするということがあまりない。しかし、日本においては競争の次点を目指して、努力が継続されているというのである。
いわば、メリトクラシーの価値が一部のエリートにのみ共有されているのではなく、「メリトクラシーの大衆化」といえる状況が日本的な特徴だということだ。
この筆者は、立身出世や苦学といった、日本人の努力に関する著書を一貫して書き続けている。その問題関心がどこから来ているのか、ずっと疑問だったが、本書の最後を読んで理解した。
本書の最後では、日本型のメリトクラシーが生み出す人間像について書かれている。上も下も恒常的に努力を煽られる状況では、目の前の選抜を突破することのみが目的となり、長期的な視野を持てず、情熱を失った人間が生み出されるというのである。
これだけを書くと、安易な日本人非難論と大差ないが、膨大なデータと綿密な分析によると説得力が断然違う。近年では、日本人の意欲格差というようなことも言われているが、本書が示唆するものはまだまだ多い。
それにしても、本書がすごいのは分析に使用しているデータだと思う。4・5章で、ある大手生命保険会社が出てくるのだが、どこの大学出身者が何人採用されたか、ある年に入社した社員はその後、何年たってどの地位に昇進したか、などの到底入手できるとは思えないデータが出てくる。筆者があとがきにも書いているように、「料理は素材によるところが大きい」というのも、むべなるかなと思った。