レフ・トルストイ『復活』(上)

復活 (上巻) (新潮文庫)

復活 (上巻) (新潮文庫)

学部1年の時から何度か読もうと思ったことがあった作品ですが(N君が読んでいた)、延ばし延ばしになって約8年越しになってしまいました。

トルストイの作品は、『アンナ・カレーニナ』を学部1年か2年の時に読んでいますが、壮大で美しい作品だとは感じつつも、どこか受け付けないところがありました。それは多分にこの作品に強く表れている、規範的・教訓的な要素のせいであったと思います。

この点は、『イワン・イリイチの死』を読んだ時にさらに強く感じたことで、「正しく生きないと、こんなにひどい晩年を過ごすことになるぞ」と言わんばかりの作家のメッセージに少なからぬ反発を覚えたものです。そのため、同じロシアの文豪ではドストエフスキーの方が、人間の内面の複雑な矛盾をそのまま描き出しているような感じがして、より親しみを持つことができました。


しかし、人間も年をとってくると少しずつ規範的になってくるからかもしれませんが、本作は非常に面白く、あっという間に上巻を読み進めました。おそらく、『アンナ・カレーニナ』も今読んだらかなり違った印象を持って読めるのではないかと思います。


本作は、19世紀の後半、農奴解放後のロシアが舞台になっています。ドミートリイ・イワーノヴィチ・ネフリュードフ公爵は、殺人事件の陪審員として裁判所に出廷しますが、そこで被告として裁かれているのが、かつて滞在していた別荘で、妊娠をさせた上に100ルーブルの金を渡して捨てた、下女カチューシャだということに気づきます。カチューシャが殺意を持っていなかったことが明らかになったにもかかわらず、裁判所のミスでシベリア流刑が宣告されてしまいます。これに伴い、ネフリュードフは過去の数々の自らの過ちを悔い、上訴のために奔走し始めるというあらすじになっています。


主人公ネフリュードフは、節制的な生活を送っており、また地主の生まれでありながら土地の私有制を否定して、親から受け継いだ土地を農民に分配するようなこともしています。しかしながら、軍隊経験を経るなどするうちに、奢侈な生活を送るようになり、上述のカチューシャとの事件も起こしています。

興味深いのは、ネフリュードフ自身が当初は、自らは正しい人間であったにもかかわらず、自ら否定していた派手な生活をすればするほど、周囲からの評判はむしろ上がっていったと回顧していることです。つまり世間の様々な悪徳に染まるうちに、堕落してしまったということで、ここにはトルストイが影響されていた、ルソーの自然主義が表れているのかなと思います。